『絵馬:病気平癒と無病息災を願って』の開催にあたって
日本博物館シーボルトハウス館長
クリス・スヒールメイヤー
絵馬は、寺社に奉納される願いです。
そこに書かれた願い、祈り、そして感謝の言葉は、日本の文化を雄弁に表現しています。片面には絵柄、神仏への願いは裏面に書かれるのが普通です。困ったときの神頼みというよりは、こうすることで日本人は困難に向かう慰めと支えを得ようとします。神仏に祈ることで、人は最終目標を達成するためあらゆる努力を尽くしたという気持ちにもなります。自信を深めるために神に願いを書くのですから、絵馬の奉納は積極的な行為と言えます。願い事については、合格祈願が最も多く、次に商売繁盛、家内安全・無病息災と続きます。
絵馬は、教会で蝋燭を灯し、神へのとりなしを求めるのに似ています。いずれも他者への思いやりと愛情を示す行為なのです。家族や友人の病気の回復を願って絵馬を奉納することも、教会で蝋燭を灯すことも、同じように安らかな気持ちを呼び起こしてくれます。両方とも自分の願いを表現する機会であり、困難を乗り越えるのを楽にしてくれます。絵馬は一定の時期を過ぎれば燃やされます。この絵馬焚きは教会で蝋燭をともすのと同様に、願い事の解放を意味します。
急速に高齢する現代社会では、高齢者数は過去最高に達しました。そのため「ぼけ封じ」を願う絵馬が非常に多くなってきています。また、もう一つ日本でよく知られるのが歯に関する問題です。虫歯や歯痛を防ぐために祈りを捧げることができる寺社が数多くあります。
この度、日本博物館シーボルトハウスでは、『絵馬:病気平癒と無病息災を願って』と題して特別展を開催いたします。 医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796年2月17日ヴュルツブルク—1866年10月18日ミュンヘン)の名を冠する当館にとっては意義深いことです。シーボルトは日本への深い愛情をもって、日本における西洋科学の発展に大きく寄与し、また西洋での日本学の深まりに重要な役割を果たしました。長崎の鳴滝塾では、外科に関する新しい知識や技術を紹介し、医学分野でその名声は長く伝えられました。革新的な白内障手術を施し、“奇跡の医師”として知られ、難産の際には鉗子の使用を促進させました。加えて、鍼や灸の東洋医学を西洋に伝えました。
この展覧会の絵馬は、ラドバウト大学の薬学教授ペーター・デ・スメット氏のコレクションです。 どうぞごゆっくりとお楽しみください。